がん陽子線治療について
「岡山大学・津山中央病院共同運用がん陽子線治療センター」は、中四国エリアにおけるがん医療の拠点として、患者の皆様のQOL(クォリティ・オブ・ライフ)の維持と、医療水準の向上によって地域の活性化に貢献します。
陽子線治療は最先端の科学技術を駆使した新しいがん治療法です。陽子線治療は、体内のがん(癌 腫、肉腫などの総称)細胞に陽子線を照射して増殖を止める、放射線治療法のひとつです。がん細胞の周囲にある臓器などを傷めるリスクが少ないのが特徴で、これまでのX線やガンマ線を用いる放射線治療では治療が困難であった疾患にも、すぐれた効果が期待されています。がん治療の選択肢のひとつとして陽子線治療の適応を検討することは、これからのがん治療を考える上で大きな意味を持つことになるでしょう。
陽子線治療とは?
陽子線は、粒子線の一種です。粒子線とは、中性子、陽子、炭素イオン、電子などの粒子の流れです。この中で、陽子線と炭素イオン線(重粒子線)が、がん治療に用いられています。当院で利用するのは陽子線です。陽子は水素の原子核のことで、プラスの電気を帯びた粒子です。
陽子線治療の有効性が確認されている代表的な疾患は、前立腺がん・肝がん・頭蓋底腫瘍・頭頚部腫瘍(副鼻腔がんなど)肺がんなどの塊状の腫瘍です。
水素原子から抽出した陽子を「シンクロトロン」という大型の装置を用いて真空中で光速の70%近くにまで一気に加速すると、からだの中への透過力が大きく、がん細胞を破壊する力をもつ陽子線となります。
この陽子線をがん細胞に照射して集中的にぶつけ、がん細胞を攻撃して壊します。陽子線の特性を利用して患部に狙い通りにビームを当てることが可能なので、より広い範囲に照射する従来の放射線治療に比べて、患部以外への影響を軽減することができます。
陽子線治療の特徴
陽子線治療の最大の特徴は、対象患部の深さや範囲に合わせてピンポイントで照射し、正常な組織を傷つけずに体の奥にあるがん病巣だけをダイレクトに破壊できることです。そのため、治療効果が高く、重要な臓器を守れるというメリットがあります。
患者さんの体にメスを入れることなく、がん病巣を狙い撃ちして周囲の正常組織への副作用を最小限にできます。患者さんの体力やがんの種類、併用される治療などにもよりますが、通院で日常生活を続けながらがんを治療することもできます。
陽子線の性質
X線やガンマ線は、放射線量の多くが体の表面近くで吸収され、深部に到達する量は少なくなってしまいます。逆に陽子線は、体の表面から入るときは低いエネルギーで入って、特定の深さのところで急激にエネルギーがピークに達した後そこで止まる性質があります。これを発見者の名前をとって「ブラッグピーク」と呼びます。がんの治療では、病巣の深さや大きさに合わせて、このピークの深さや幅を拡げることができます(拡大ブラッグピーク)。この特性を活かすのが陽子線治療です。
X線治療と陽子線治療との線量分布の違い
臓器への影響について
ブラッグピークをコントロールして腫瘍の大きさや形に合わせることで、患部の奥でぴったりと止まり、放射線の広がりを格段に小さくすることができます。がんの奥にある正常な細胞が被ばくすることなく、ピンポイントの照射が可能になります。
陽子線で治療できるがん
がんに対する治療法には大きく分けて外科的切除・化学療法・放射線治療の3つがあります。(陽子線治療は放射線治療の仲間に含まれます。)病気の性質や進行期によって3つの内から1つ、もしくは組み合わせでもっとも適した治療法が選ばれます。当院では、化学療法センター、外科的手術などと併せた集学的な治療が可能です。
陽子線治療は、がんの部位などによって、陽子線治療が有効な場合と困難な場合があります。
現在、陽子線治療に向いていると考えられるのは、頭頚部(鼻腔や副鼻腔、唾液腺・頭蓋底など)、肺、肝臓、前立腺、膀胱、食道、膵臓などの原発性がんに加え、直腸がん術後の骨盤内再発や単発性の転移性腫瘍(肝転移、肺転移、リンパ節転移)などがあります。
胃や大腸など消化管のがん、および消化管に近接した部位にがんがある場合は、放射線による粘膜潰瘍のリスクがあるため陽子線治療が困難です。また、がんの元の病巣から他の臓器やリンパ節へ転移が広がっている場合は十分な治療効果が期待できないため陽子線治療の対象となりません。また、がんの大きさは10㎝以下が望ましいと言えます。これを超える場合は治療機器の制約により治療が困難になる場合もあります。
頭部
公的医療保険適用部位
・頭頸部がん(口腔咽頭の扁平上皮がん以外)
先進医療適用部位
・脳腫瘍
広範な播種のない神経膠腫、広範な播種のない膠芽腫、切除困難または悪性、退形成性髄膜腫、他の組織系に分類される脳腫瘍
・頭頸部がん(口腔・咽喉頭の扁平上皮がん)
胸部
公的医療保険適用部位
・肺がん
臨床病期Ⅰ〜ⅡA期の原発性肺がん
・肝細胞がん
腫瘍の長径が4㎝以上のもの
・肝内胆管がん
・膵がん
先進医療適用部位
・肺がん、縦隔腫瘍
転移および隣接臓器浸潤のない肺がん、所属リンパ節転移あるいは隣接臓器浸潤を有する原発性非小細胞肺がん、遠隔転移のない気管・気管支がん、縦隔腫瘍
・肝細胞がん
肝細胞がん(保険適応外のもの)
・肝門部胆管がん・胆道がん
・食道がん
局所進行食道がん
腹部
公的医療保険適用部位
・局所大腸がん、直腸がんの術後局所再発
・前立腺がん
先進医療適用部位
・腎臓がん
・膀胱がん
全身
公的医療保険適用部位
・小児がん
20歳未満に発生した限局性の固形悪性腫瘍
・限局性の骨軟部腫瘍
脊索腫、軟骨肉腫、骨肉腫、その他のまれな骨軟部腫瘍
先進医療適用部位
・転移性がん
転移性肺腫瘍、転移性肝腫瘍、転移性リンパ節
陽子線治療のメリット・デメリット
陽子線治療のメリット
- これまでのがん治療法に加えて選択範囲が広がり、それぞれの患者さんが最適な治療を選ぶことができるようになります。
- 外科手術や薬物療法、従来の放射線治療に比べて患者さんの身体的な負担や副作用のリスクが少ない、身体に優しいがん治療です。
- 放射線の影響を受けやすい臓器の近くにある腫瘍にもより安全に照射できます。
- X線が効きにくい腫瘍や、より大きな腫瘍(6㎝以上)の治療にも効果があります。
- 日常生活を続けながら、通院でも治療でき、治療後の円滑な社会復帰も期待できます。
- 治療中は痛みや熱さが全くありません。
- 臓器の形態、機能を温存することができるだけでなく、皮膚に傷跡も残らないので、心身に大きな好影響を与えます。
陽子線治療のデメリット
- 局所治療なので、がんが全身に転移しているⅣ期の場合は適応できません。リンパ節転移がみられる患者さんに対しても治療はやや難しくなります。
- 転移がなく比較的早期のがんであることが適応条件です。
- 消化管から発生した胃がんや大腸がんは適応の対象外となります。
- 先進医療に関わる費用は保険適応外のため、全額が患者の自己負担となります。
「先進医療」とは保険診療の対象となっていない先進的な医療技術について、一定の基準を満たした医療機関において保険医療との併用を認めたものです。
よくある質問
陽子線治療に関するよくある質問
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